マイケルがBeat It をビートイットと発音していないと気付いた経緯
私が中学生だった頃、毎週土曜日の午後2時から「セーラのPopsベスト10」というラジオ番組をよく聴いていました。ある日、マイケルジャクソンのBeat Itという曲がオンエアされたのですが、一瞬で魅了されてしまいました。
中学生の私にはマイケルの英語が全く聴き取れなかったのですが、何を言っているのかどうしても知りたくて、カセットテープをレンタルしてきました。現代のようにコンビニのコピー機も無かった時代なので、歌詞カードを手書きでノートに書き写しました。
左に英語、右に日本語訳を書き、発音記号は読めませんでしたが、気になる単語の下に辞書を引いては発音記号を書き込んでいました。
レンタルカセットはダビングして音源確保し、手書きの歌詞と何度も突き合わせをしながら文字と音声を一致させるべく聴きこみましたが、その時に気付いたのです。
マイケルは ビート・イット と発音していない、と言うことに!!!
何度聴いてもビネーにしか聴こえない音声をBeat Itという文字と結びつけられず、かなり長い間この疑問を抱えたまま悶々とした時間を過ごしました。今思えば、私の英語学習はマイケルから始まったのかもしれません(笑)
そして、私と同じような疑問をお持ちの方のお役に立てるのでは?と思いこの記事を書くに至りました。
先ずは/t/の基本的な口の形と音を押さえる
この記事では Flap T と Stop T という2種類の t について説明したいと思います。その前に基本形の/t/の発音方法をおさらいしましょう。
●舌先を歯茎に付けた状態で息を溜めてから勢いよく吐き出す(破裂音)
●息だけを吐く音なので声は出さない(無声音)
もっと詳しく知りたい方は以下のページで再確認してくださいね☆
【基本作業】辞書で発音記号を調べて、スペルと突き合わせる
Beat It の発音記号をCambridge Dictionaryで確認すると以下のようになります。
個別に読む場合は、/biːt/と /ɪt/、それぞれにストレスが乗るので両方とも明瞭に強く発音しますが、、、
スペル | beat | it |
発音記号 | biːt | ɪt |
通常、2語の間のスペースで区切ることはありません。ですから、スペースを除去し、[beatit]という新たな単語として取り扱うとストレスの位置が/biː/だけに乗ります。
視覚的に分かりやすくするためストレスの乗る文字サイズを大きくしました。
スペル | beatit |
発音記号 | biːtɪt |
Flap T (Soft d) に変化する条件は2つある
/t/がSoft dに変わることを 「Flap T化する」と言い、それには2つの条件があります。
①/t/が母音に挟まれていること。
☞ 発音記号 /biːtɪt/ の/t/に注目すると、 左に母音/i/、右に母音/ɪ/があるので、条件に合っています。
②/t/がストレスが乗らない音節にあること。
☞ 発音記号 /biːtɪt/ の/t/は文字サイズを小さくしていますから、ストレスが乗らないという条件に合っていますね。
ということで、2つの条件に当てはまるので/t/が/t̬/に変化します。
スペル | beatit |
発音記号 | biːt̬ɪt |
Flap T化した/t/の下に下向き矢印頭 ˬ が付いているのが見えますか?
語末のTは Stop T:/t/の口の形は作るが息を吐く手前で止める
変化はまだあります。次は語末の/t/に注目です。
語末の/t/は、舌先を歯茎に付けるところまでは基本の/t/と同じですが、息を吐いてはいけません。吐こうとする息を勢いよく止めるためStop Tと呼ばれています。 息を止めるので、当然/t/の音は聴こえませんから語末の/t/を以下のようにカッコに入れました。
スペル | beati(t) |
発音記号 | biːt̬ɪ(t) |
変化を遂げた発音記号 /biːt̬ɪ(t)/ を読むと 「ビィデッ」に近い音となります。
語末の/t/は Stop Tです。勢いよく息を止めていることを表現するために「ッ」で表しました。
また、/t̬ɪ/ を「ディ」ではなく「デ」にした理由は/ɪ/の音が「エ」に近い音だからです。 /ɪ/は「イ」と「エ」の中間的な音なので「イ」と聴こえる場合も「エ」と聴こえる場合もある曖昧な音であることを知った上で、マイケルは「エ」に近い音を出しているんだな、と分かればOKですね(^^♪
/ɪ/を詳しく知りたい方は以下の記事も合わせてお読みくださいね。
本来の発音「ビィデッ」→ リズムに乗せた読み方「ビネー」
先ほど、変化を遂げた発音記号 /biːt̬ɪ(t)/ を読むと 「ビィデッ」となると書きましたがマイケルの発音は「ビネー」と聴こえる原因は何でしょう?
●リズムに乗せた場合、音を伸ばす箇所が発音記号通りではなくなるケースもある。
●/t/が/t̬ɪ/に変化し、更に軟化して/n/に近い音に変化した。
(/d/も/n/も歯茎に舌先を付け点が同じなので)
こんな風にして1つ1つの音を分析しながらBeat Itを歌えるようになるまでになったのですが、中学生の頃はロジックで説明することはできませんでした。そもそもFlap T や Stop T の存在すら知らなかったので、音が変わっているけど理由も分からずひたすら曲を聴いてはひたすらマイケルの歌声に重ねて歌う練習をしていたのです。(後に分かったことですがこの練習方法をOverlappingというのです) その数年後にカラオケデビューできたので、Overlappingの効果絶大ということになりますね!
発音はいくら文字と睨めっこしても良くはならないものです。 文字からは決して読み取れない音の変化を、ロジックで理解したうえでOverlapping練習をすれば発音は必ず上達します。 自分ができる発音は聴き取れますので、当然リスニング力もついてくるという一石二鳥の練習方法です♪